【完全ガイド】初めて犬を飼う方へ:母犬の愛情と育成環境が将来の性格を決める理由

犬を家族として迎え入れる――その決断は、人生の中でも大きな出来事のひとつです。特に初めて犬を飼う方にとっては、不安や疑問も多いことでしょう。「どんな犬種がいいのか」「性格は穏やかな方がいい」「しつけやすい子がいい」といった希望を持つことは自然です。

しかし、本当に大切なのは「どこから・どんな環境で育った子犬を迎えるか」という点です。

近年の動物行動学や獣医学の研究では、子犬の性格や行動のベースは「生まれてからの最初の数週間の育ち方」に大きく影響されることが明らかになっています。そして、その期間における「母犬との接触」や「育てられ方」が、その後のストレス耐性・社会性・攻撃性・依存傾向などにまで影響することがわかってきました。

この記事では、母犬から学ぶ「育ち方の重要性」を科学的根拠に基づいて解説しながら、「どのような育ち方をしてきた子犬を選ぶべきか」、そして「信頼できる販売者の見極め方」まで、初めて犬を飼う方が知っておくべき基礎知識を網羅的にご紹介します。

目次

初めての飼い主にとって「子犬選び」が重要な理由

  • 性格が合わない・問題行動がひどい → 飼育放棄の原因になる
  • 多くの問題は「犬種」よりも「子犬期の育ち方」に起因している
  • 初心者こそ、「手がかからない子」を迎えたい → 育ち方で決まる

初めて飼った犬が飼いやすかったか、そうでなかったかは、あなたの今後のドッグライフ人生を大きく左右します。

私にとっての最初の犬は、小学生の頃に家族で迎えた黒柴でした。犬の知識は家族全員皆無で、しつけなどしたことはないのですが、性格も穏やかで、人懐っこく、とても良い子でした。

その子が亡くなったあとも、良いイメージがそのまま残り、犬好きのまま今に至ります。もし、これが大変な子だったら「2度と犬は飼わない」となっていたかもしれません。正直、運が良かったのだと思います。

犬は当然ですが、モノではありません。同一商品・同一品質ということは決してなく、同じ犬種であったとしても同じ性格の子はいません。

そして、犬種特性以上に育ってきた環境の影響を大きく受けると言うのも、数百という犬舎を回ってきたなかでの実感です。

母犬が子育てする意味とは?

母犬は単に「授乳」するだけではありません。母犬は、

  • 体温調節(子犬は自分で体温維持できない)
  • 排泄促進(舐めて出させる)
  • 舐めることで安心感を与える
  • 咬みつき抑制など社会的ルールを教える
  • 兄弟喧嘩の仲裁・遊びを促す

→つまり、「命を守る+社会性を教える+愛着を形成する」のが母犬の役割です。

科学が明かす「母犬との接触」が子犬に与える影響

🧪 代表的な研究・知見

  • Guardini et al.(2017, 2019)
     → 母犬の舐め・授乳時間が多い子ほど、対人接触に積極的
  • Bray et al.(2017, PNAS)
     → 手厚く育てられた子ほど、訓練時に不安・集中力低下 → 適度な「自立促進」も重要
  • Foyer et al.(2016, 軍用犬研究)
     → 母犬の育て方で将来の攻撃性・社交性に差が出た

🧠 影響を受ける子犬の発達項目

  • 安定した愛着形成(=不安分離の予防)
  • 社会的行動の発達(他犬・人との接し方)
  • ストレス耐性・問題解決力(自立心)
  • 咬み加減などの抑制行動(社会的ルール)

ブリーダーやショップ店員による代替育成とは?

理想的には母犬が全てを行うべきですが、以下のような事情でそれが難しいこともあります。

  • 母犬が初産で育児拒否する
  • 母乳が出ない
  • 病気で育児ができない

→このとき、人が「代替母犬」として育てることが必要です。

🧩 良い代替育成とは?

  • 人が舐め代わりにブラッシング・マッサージ
  • 保温・排泄促進・母乳代用品
  • 他の成犬(社会化犬)と触れ合う場を用意
  • 咬みつき抑制を学べるように遊び相手をつける

重要なのは「触れ合いの質と量」。ケージで放置されていたら問題行動の温床になります。

早すぎる引き離しがもたらす問題

⏰ 生後8週未満での母子分離のリスク

  • 分離不安
  • 他犬への攻撃性
  • 人への恐怖
  • 咬みつき抑制ができない
  • 問題行動の発生率が高い(学術的にも報告)

動物愛護管理法では、生後56日までの子犬販売は禁止されていますが、だからと言ってギリギリまで母犬や兄弟と一緒に暮らしているとは限りません。

環境省も各犬舎やショップを24時間監視しているわけではありませんので、別々のケージに入れられてほとんど接触がない可能性もあります。

先の章での代替育成も同様です。しっかりと犬舎やショップ見学、質問をすることが重要です。

どんな育ち方をしてきた子犬を選ぶべきか

✅「育ち方」で選ぶ具体的基準

  • 生後8週まで母犬・兄弟と過ごした
  • 咬む加減が身についている
  • 他犬に対して攻撃的でない
  • 初対面の人にビクビクしない
  • 物音に過敏すぎない
  • 自分で探索行動ができる

🐾 理想的な流れ

母犬と一緒

兄弟と遊びながら社会化

人との触れ合いと基本しつけ

飼い主へバトンタッチ

信頼できるブリーダー・ショップを見極めるポイント

🧑‍🌾 ブリーダーの場合

  • 子犬の親犬が見られる
  • 母犬が子犬と接している姿を見せてくれる
  • 室内で育てている(外飼いNG)
  • 犬種に対する知識がある
  • 母犬の性格も良好
  • 臭いもなく清潔な犬舎

🏪 ペットショップの場合

  • 8週齢以降にしか展示していない
  • 提携ブリーダーの育て方を説明できる
  • 社会化済みの子犬(あるいは進行形)のみ販売
  • スタッフが犬と日常的に接している

ペットオークション(セリ市)などで仕入れて販売するペットショップも存在します。その場合、その子犬の生まれ育った環境をショップ店員もわからず販売している可能性が高いです。

購入前に必ず聞くべき質問リスト

  • この子は母犬と何週まで過ごしましたか?
  • きょうだいたちと遊ぶ時間はどれくらいありましたか?
  • 咬み加減のトレーニングはされていましたか?
  • 人との触れ合い経験はどれくらいありますか?
  • 母犬の性格や育て方について教えてください

ブリーダー犬舎に訪問すれば環境や母犬を見れば一目瞭然ということもあります。

ペットショップの場合、これらの質問全てに答えることができない可能性もありますが、わからないことは「わからない」と正直に伝えてくれるショップの方が好感が持てます。購入希望者は、その不明点は一つのリスクと承知の上で判断することが重要です。

子犬の発達チェックポイント(見るべき行動・しぐさ)

  • 軽く咬んだ後に口を緩めるか(咬みつき抑制)
  • 初対面の人に警戒しすぎないか
  • 音に対してパニックにならないか
  • 他犬にしつこくないか
  • 人と目を合わせられるか
  • 自らおもちゃに向かっていけるか

こだわりを持っているブリーダーは、これらのことはすでに把握済みだったりします。「こんな性格の子が良い」と言えば見合った子を教えてくれたりします。

なお、購入希望者がこれらのチェックを自ら全て行うのは難しいかもしれません。ショップの場合は、店員さんが代行して行うことになるかもしれません。

ちなみに、上記チェックはあくまで初心者でも飼いやすい子犬のチェックポイントとなりますが、当てはまらない場合でも、行動学を理解し、適切なしつけやトレーニングを行うことで後天的に性格を形成することも可能です。

あえて、一般的に飼いにくいとされている性格の子犬を迎える熟練飼い主?の方もいますが・・・。

子犬の心を守る「その後」の育て方

母犬がいない分、飼い主が代わりにすること:

  • 不安な時はそばにいてあげる
  • 「やっていいこと」「ダメなこと」を一貫して教える
  • たくさん撫でて安心させる
  • 社会化の機会(人・犬・音・環境)を段階的に用意
  • しつけ教室や子犬クラスへの参加もおすすめ

まとめ:あなたの選択が、犬の一生を左右する

母犬との時間は、犬にとって人生最初の「学校」であり、「母性の記憶」です。その時間を奪われた子犬は、人間の手で社会性・安心感・ルールを学び直さねばなりません。

初めて犬を飼う人だからこそ、最初から安定した性格と社会性を持った子犬を迎えることが、自分自身にとっても犬にとっても幸せなスタートになります。

「かわいい」「小さい」だけで決めずに、その子がどんな母犬のもとで、どんな環境で育ったかに目を向けてください。

子犬選びのサポートもできます。

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参考文献・出典一覧

  1. Guardini, G. et al. (2017)
     母犬の世話量と子犬の行動傾向の関係について示した研究。
     “Maternal Behaviour in Domestic Dogs: A Study on the Influence of Breed and Parity”Animals, 7(12), 93.
     https://www.mdpi.com/2076-2615/7/12/93
  2. Bray, E. E. et al. (2017)
     補助犬候補のラブラドールにおいて、母犬の育児スタイルが子犬の認知発達に与える影響を実証。
     “Effects of maternal care on cognition and behavior in puppies”Proceedings of the National Academy of Sciences, 114(44), 11790–11795.
     https://doi.org/10.1073/pnas.1707327114
  3. Foyer, P. et al. (2016)
     軍用犬の育成において、母犬の行動が将来の気質や能力に及ぼす影響を示す研究。
     “Early experiences modulate stress coping in a population of German shepherd dogs”Applied Animal Behaviour Science, 180, 96–106.
     https://doi.org/10.1016/j.applanim.2016.04.008
  4. Tiira, K. & Lohi, H. (2015)
     成犬の恐怖傾向と、子犬期の育成環境・母犬の行動の関連についてのアンケート調査研究。
     “Early life experiences and exercise associate with canine anxieties”PLOS ONE, 10(11), e0141907.
     https://doi.org/10.1371/journal.pone.0141907
  5. 環境省 動物愛護管理室(2021)
     8週齢規制の科学的根拠と母犬からの社会化の必要性について記述。
     「動物愛護法改正に関するQ&A集」
     https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/qa_r2rev.pdf
  6. 公益社団法人 日本動物福祉協会(2022)
     生後8週未満の販売が問題となる理由とその影響に関する解説資料。
     https://www.jaws.or.jp
  7. 犬曰く『社会化期に入る前の子犬への、母性行動の影響』(2021)
     https://inuiwaku.net/32808/
  8. ペットフード協会『2023年 全国犬猫飼育実態調査』
     子犬の飼育環境や入手時期に関する最新の全国データを提供。
     https://petfood.or.jp/data/chart2023/
  9. Freestitch ブログ『ブリーディングの歴史(8)子犬の育つ環境』
     https://www.freestitch.jp/mblog/24891
  10. goo BLOG『生真面目な母犬の哺育ぶり』
     https://blog.goo.ne.jp/lab-triplestar/e/f30cea852037b3715a49e30550fdddf8
  11. Amebaブログ『母イヌから十分な養育を受けたイヌは成長後ストレスに強くなる』
     https://ameblo.jp/gomakichiado/entry-12709306494.html
  12. 東千葉いこい動物病院『時期に応じた子犬の育て方』
     https://higashichiba.ikoi-clinic.com/archives/665
  13. Secil-wan.com『子犬の社会化の重要性』
     https://secil-wan.com/society/118
  14. 犬と人のよりよい関係研究会(HAA)『人と動物の共生に関する法律と育成科学』シンポジウム要約
     https://human-animal.jp/activity/law/697.html
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