愛犬を抱っこすると、他の人やワンコに唸ったり吠えたりすることってありませんか?
私はこれを「シャイだけど気が強い」と言ってます。
実際、しつけ方教室に参加した小型犬のほとんどがこれに当てはまりました。
飼い主さんも無意識のうちに行っている「抱っこ」。
これが愛犬を苦しめている可能性もあります。
私は飼い主と関係性ができるまでの抱っこは「百害あって一利なし」だと思っています。
「なぜ、そう思うのか?」、「ではどうするべきか?」を今から解説します。
きっかけはパピーパーティー
子犬の社会化教育を目的としたパピーパーティーに参加される飼い主さんから「他のワンコと仲良くなれない」「友達になれない」と言った相談をよく受けていました。
その都度、私は「友達になる必要がありますか?」とお答えしています。
そう思っているのは飼い主だけであって、犬だって個性があり「嫌なものは嫌」なのです。
先天的にシャイな子が次の日からフレンドリーになることは考えにくく、むしろ強引に求めることで愛犬を追い込んでいる飼い主が多いのが実情です。
詳しくは下記記事をご覧ください。
ただ、基本シャイ(臆病)で、他の子が近寄ってくると逃げて椅子の下に隠れる子も、ある特定の条件では唸り強気になります。
それが「抱っこ」をしているときです。
そして、愛犬も抱っこを執拗に求めてきます。
そのことを認識していない飼い主は「唸っちゃダメでしょう」と言いながらも抱っこをして背中を撫で続けています。
では、なぜ抱っこが原因なのでしょう?
陽性強化は難しい
ワンコにとってスキンシップは重要です。
褒めるときは「体を撫でてあげたりアイコンタクをとったりしましょう。」と教わり実践している方も多いと思います。
さらには、おやつをあげてその行動を承認する場合もあるかと思います。
それらは、「陽性強化」と一般的には呼ばれ、飼い主にとって好ましい行動をより強化する条件付けの手法です。
基本、ワンコも飼い主もハッピーになる素晴らしいしつけ方法なのですが難しさもあります。
それは、「タイミング」と「意図が通じている」かです。
例えば、吠えるワンコがいて、吠えやんだからスキンシップをとりながら褒めてあげて、おやつを与えたとします。
飼い主からすれば「吠え止んだから与えた。これからは吠えないでね。」との思いを伝えた(または伝わっている)と考えているかもしれません。
ですが、受け取る側の愛犬はどうでしょう?
「吠えたからもらえた。だからもっと吠えてやろう。」と考えている可能性もあるわけです。
実際、一向に「吠えるのをやめない、何なら強くなっている」のであれば飼い主の意図は通じていません。
怯える震えることを強化している?
では、今回の本題のケースに置き換えてみましょう。
うちの子が、他のワンコや人(ご家族であっても)に対し震えたり、怯えていたとします。
飼い主が「怖くないよ」など言いながら抱きかかえときそれらの行為が止んだとします。
「抱っこしたらおさまった。安心したのね。」と飼い主は思うかもしれません。
ですが、愛犬は「震えることや怯える行為を承認してもらえた。」あるいは「それらをすると抱っこしてもらえた。」と勘違いしている可能性もあります。
誤認識のまま条件付けを日々行っていくと「震えたり怯えると飼い主に抱っこしてもらい、承認(褒めて)してもらえる。だからもっと震えて(怯えて)やろうと。」と真逆の強化に繋がります。
何か怖いこと、嫌なことがあれば前足を飼い主の足に添わせてジャンプしてきたり、自ら膝の上に飛び乗ろうとするワンコを見たことがある人は多いと思います。
それらのワンコは抱っこ癖がついていると言えます。
唸る子の誕生
「震えたり怯えれば抱っこしてもらえる」と思っているワンコと「抱っこすればそれらがおさまる」と思っている飼い主によって日々誤解が生じたまま抱っこを繰り返し続けると、次は「唸る、吠える」などの威嚇行動をする子が増えてきます。
例えば、抱っこされているときに吠えて、たまたま相手のワンコや人が怯んだら「抱っこをされている状態で威嚇すると優位性を保てる。気持ちいい。」という条件付けが強化されます。
特に小型犬は抱っこされると、大型犬を見下ろせるのでより強気になる子もいます。
そのとき飼い主は「吠えたらダメでしょう」と言葉では叱っているふうですが、愛犬は抱っこしたままだったりします。
「抱っこ」というスキンシップが続く以上は「もっと威嚇しなさい」と応援されているとすら思っている可能性があります。
それを繰り返していくことで「シャイ(臆病)だけど気が強い」という二重人格だ誕生します。
二重人格
「元々は気の小さいシャイな性格なのに、抱っこされると強気に変わり威嚇を始める」ってしんどくありませんか?
自分がそんな性格だと想像してみてください。
相当なストレスだと容易に想像ができます。
犬も当然ですが心労は体によくはありません。
飼い主が良かれと思ってしていることが、愛犬の健康を蝕む要因となっているとしたらどうですか?
耐えられないはずです。
昔、シャイな子ばかりを対象としたしつけ方教室を行ったのですが、集まった子たちは飼い主の膝の上で威勢よく唸ったり、吠えていました。
そこで、飼い主には愛犬だけを置いて教室外に出てもらいました。
そうすると、さっきまでとは別犬となりみんな椅子の下に隠れ一歩も動きません。
他の犬と仲良くしたいとおも思っていませんし、ましてや喧嘩をしたいとは微塵も考えていない様子です。
私には「これが僕の(私の)本当の性格なんだよ」「このまま暮らしたいんだよ」と言っているように思えてなりませんでした。
そして、飼い主が戻ってくるとまた虚勢をはりはじめます。
見ていて辛くなります。
本来のシャイな子に戻してあげることが健康面を考えても重要です。
唸ってしまった場合の対処法
唸る場合の対処法をシチュエーションごとに解説します。
- 散歩中の場合
- ドッグランの場合
- 家の中の場合
- 番外編(エレベーターの中で唸る)
散歩中の場合
愛犬の身に危険がない、あるいは健康上に理由がない限りは抱っこをしないで下記対応をしてください。
- 散歩コースを変更する
- 無理にすれ違いをさせる必要はありません。前方から来た場合は手前の道を曲がるなどできる限り会わない工夫をしましょう。(私もこれは多用します。)
- 速やかにすれ違う
- すれ違わざるを得ない場合はリードを短く持って足速に通り過ぎましょう。
- 散歩時間やコースを柔軟に変える
- その時間、コースに必ず散歩に行かなければいけないルールはありません。(むしろ、固定化しない方が良いと思っています。)どうしても苦手なワンコや、子供たちの登下校が重なる場合はできる限りずらしてみてください。
- 近づかないよう協力してもらう
- 犬とすれ違う際、「ともだち〜」感覚でリードを緩めて近づけようとして来られる方がいます。その場合は、「すみません。ワンコが苦手でして・・・」と言って通り過ぎてもらいましょう。
- 子供や人も同様です。(私も「この犬子供苦手なんだ。ごめんね。」と言ってました。)
下記記事も参照にしてみてください。
ドッグランの場合
「苦手なワンコ、人がいたら入らない。」
これに尽きます。
途中から入ってきた場合は速やかに出てください。
ドッグランでトラウマになる子は非常に多いです。
詳しくは下記記事をご覧ください。
散歩中もドッグランも共通していることは「できる限り愛犬が震えたり、怯えたり、唸ったりする環境を作らない」ということです。
シャイな子をフレンドリーにさせることは不可能ではありませんが、飼い主はしっかりとした知識と、観察力、根気が必要となります。
当然、愛犬にも乗り越えるまで相当な負荷がかかります。
私は冒頭でも記した通り、そこまでして他のワンコや人になれさせることはないと考えています。
なれさせることに時間を費やすのではなく、シャイな我が子とどう楽しむかを考え行動した方が建設的だと私は思います。
家の中の場合
例として、母親の膝の上に乗って子供に唸るワンコがいたとします。
その場合母親がとる行動は「速やかに愛犬を下ろす」です。
諦めず抱っこを求めてきても無視をしてください。
しつこい場合は立ち上がったり、その場を移動してください。
抱っこしているときに吠えるのは「私を守ろうとしているから」と思われている方がたまにいらっしゃいます。
それは勘違いです。
自分が強くなったと思うために利用されているだけです。
抱っこ癖が強いほど執拗に求めてきますが徹底的に受け入れないでください。
とても根気が必要となります。
10回中、1回でも根負けして抱っこしたのなら、次は20回無視をしたとしても愛犬は諦めません。
どれだけ震えても怯えても、愛犬の身に危険がない限りは我慢してください。
そうして気が強くなるきっかけをシャットアウトし、元のシャイな性格の状態でお子さんと接するようにしてあげましょう。
お子さんにも、強引に、いきなりハイテンションで触れ合うのではなく、落ち着いて愛犬と同じ目線で優しくスキンシップをとるよう教えてください。
番外編(エレベーターの中で唸る)
「愛犬とエレベーターに乗る際は必ず抱っこするかケージやキャブの中に入れてください。」といったマンションも多いかと思います。
そして、「乗り合わせた方に唸ってしまうのをやめさせたい」と言った相談もよく受けます。
このケースでは抱っこした状態で乗られている方がほとんどです。
やめさせたいのであれば地面に下ろすことですが、ルール上直接NGな場合はキャリーバッグなどに入れた状態でエレベーターの地面に置くか、できる限り低い位置で持つようにしてください。
どのような状況でも抱っこして唸っているのであれば地面に下ろす
抱っこするなら「リラックスポジョション」をしよう!
「気が強い」という後から作られた性格を削ぎ落とす上でリラックスポジョションはとても有効です。
今まで、家庭内で抱っこをしていた時間をこのトレーニングに費やしてみてください。
方法は下記記事をご覧ください。
まとめ
攻撃的に噛む子より臆病で追い込まれての方が経験上見てきたなかで多いと言えます。
震える・怯える→抱っこする→唸る→(他の犬や人に)噛み付く
と言ったプロセスは王道の流れと言えます。
うちの子が加害犬になることは望んでいないはずです。
「シャイ(臆病)だけと気が強い」
という二重人格を作り上げているのはワンコ自身ではなく飼い主であるということを理解し、早急に触れ合い方を見直す必要があります。
ぜひ、愛犬を苦しめないためにも飼い主は「抱っこをしない勇気」を持ち頑張って取り組んでみてください。