先日、飼い主が愛犬におやつを与え続けながら散歩をしていました。
屈みながら、後ろを向きながら、ポーチからおやつを随時とりながら歩く姿をみて、「大変だろうな」と思いながらすれ違いました。
犬のしつけやトレーニングはご褒美(おやつ)が必要だと盲目的に思っている方が意外と多くいます。
今の時代は愛犬をペットとしてではなく、家族の一員(コンパニオンアニマル)として考えている飼い主が主流だと思います。
ならば、その家族におやつ漬け(餌付け)をするのが果たして良いことなのでしょうか。
私はどちらかといえば否定的です。
今からその理由と、飼い主(親)の果たすべき責任について解説します。
おやつによるしつけには先がある
私はおやつによるトレーニングを全否定するわけではありません。
愛犬とコミュニケーションをとるためのとっかかりとして使用することは、ありだと思っています。
ただし下記2点を注意する必要があります。
- 良いことをしたときに使用する
- 必ず最後はおやつを抜く
良いことをしたときに使用する
例えば、よく吠える愛犬が吠え止んだ後におやつを与える場合です。
飼い主は「吠えやんだね。偉いね。ご褒美ね。」といった解釈だと思います。
ですが、愛犬側はもしかすると「吠えたらもらえたぞ。なら、もっと吠えてやろう」と認識しているかも知れません。
つまり、飼い主の意思伝達率は2分の1ということです。
当然ながら、愛犬が後者の理解をしていれば「吠える」行為はひたすら強化されていきます。(実際、そうなっている犬をたくさんみてきました。)
「甘噛みをやめたから」「引っ張るのをやめたから」と言うのも同様です。
あと、くわえたものを離さない愛犬に対し、交換条件としておやつを与えるのも「くわえたからもらえた」と思う可能性だってあります。
いずれにせよ、やめて欲しい行動に対し(飼い主からみた問題行動)、ご褒美(おやつ)を使い導いていくのは、両者の認識の違いが生じやすいだけではなく、むしろ悪化させることだってあるのです。
それに、飼い主が望んでいる行動と、実際に行われている方法のギャップに愛犬は混乱し、信頼関係が損なわれることだってあります。
「ダメなものはダメ」と伝える。
その方がシンプルでわかりやすいのです。
一方、「まて」ができたらおやつを与えるはどうでしょう?
「(飼い主にとって)良いこと」をしたときに、「より良いこと」が待っているというシチュエーションは愛犬にとってシンプルでわかりやすいはずです。
あと、呼び戻しでの使用も良いかも知れません。
「名前を呼んで戻ってきたらおやつがもらえる」
きっかけとしては効果があると思います。
おやつを使ったしつけやトレーニングを行うのであれば、望まない行動をやめさせるためではなく、良いことをしたときに使用するようにしましょう。
必ず最後はおやつを抜く
おやつは麻薬です。
ハマると効果が高いですが、それゆえに依存してしまいがちです。
元来、おやつは徐々に与える回数を減らし、最後はなくても指示に従う関係を構築する必要があります。
あくまで、おやつは「きっかけ」なのです。
それに、家族の一員として暮らしているのに、おやつがないと言うことを聞いてくれないのならば寂しくありませんか?
「おやつの切れ目が縁の切れ目」
とならないよう、抜くところまでしっかりと行うことが何より重要です。
具体的には、10回中10回おやつを与えていた(連続強化)のを、10回中1回は与えない、2回は与えないと徐々に減らしていきます(部分強化)。
そうすることで、逆にギャンブル性が高まり、その行動が一層強化されると言うことが証明されています。
ただし、一気に減らしすぎて、行動強化が図れない場合は、改めて回数を増やすなどの調整が必要となります。
最後は全く与えないところまで持っていくことが理想だと私は考えますが、少しは残しておくべきだという考えもあります。
ちなみに、私の愛犬は現在「まて」でも「呼び戻し」をはじめしつけでおやつは使用していません。
犬の性格や、飼い主の犬の扱い度合いによって柔軟に判断して良い領域だと思われます。
どちらにしても「おやつの頻度を減らす」ことは必須となります。
しつけの目的は命を守ること
しつけやドッグトレーニングする目的は?」
と聞かれると「愛犬の命を守るため」と即答します。
今の時代は、家の中でも、ドッグランでも、ノーリードにする機会が増えています。
家から飛び出したり、ドッグランで他の犬と喧嘩を始めたり、子供に飛びかかろうとする愛犬を制止させ、呼び戻しできる自信がある人はどれだけいるでしょうか?
しつけやトレーニングの真価が問われるのは平常時ではなく非常時です。
それも、極めてうちの子の命(あるいは他人の犬や人)に関わるときに、おやつを取り出してあげる準備をする余裕はあるでしょうか?
そもそも常に持ち歩くのも地味に大変です。
緊急時に飼い主の身一つで対応できるように、最初からおやつを使わずしつけをするか、使ったとしてもしっかりと抜くことが肝要なのです。
まとめ
私はおやつを使ったしつけ(トレーニング)は実は簡単なようで難しいと考えています。
その理由は「母犬はおやつを使わない」からです。
子犬を育てるプロは間違いなく「母犬」です。
母犬の育て方を習い真似ることがわかりやすいに決まっています。
その母犬が子犬に教育をする際、どっからともなくおやつを出して与えていません。
しっかりと喜怒哀楽を表し、体一つで向き合っています。
犬の教育システムにないことをすること自体、難しいのは当たり前です。
根気良く愛犬と向き合えば、おやつを介在せずともコミュニケーションを深めることは可能です。
ぜひ、盲目的におやつを使用するのではなく、現在依存している人は抜いていく作業を、これから子犬を飼われる方は、安易に手を出すまえに、極力使わない方法を模索してみてください。