日本の「平均寿命」は世界1位で「84.3歳(2021年WHO)」。
「健康寿命」も「74.1歳(2022年WHO)」で世界1位。
それは大変喜ばしいことではある一方、平均と健康の間の約10年を縮めることができればより理想だとも言えます。
健康寿命を伸ばすための大きな対策として「犬と暮らすこと」が注目されています。
この記事ではその理由と、高齢者が犬を飼うためのポイントを解説します。
「平均寿命」と「健康寿命」
平均寿命とは「0歳における平均余命」のこと。
健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。
下記図は厚生労働省が出している「健康寿命の推移」となります。
その差は少しずつ縮まっているものの、できることならより近づけたいと誰もが願っていると思います
その「健康寿命」を伸ばすための様々な取り組みは現在も様々な形で行われていると思いますが、その中の一つに「犬と暮らす」があります。
リスク半減というデータ
既に犬のいる暮らしを満喫している方は肌感覚として実感していると思いますが、下記データなどが発表されています。
日本の高齢者1万人以上を対象にした調査で、犬を飼っている人は飼ったことがない人に比べ、介護が必要になったり、亡くなったりするリスクが半減することがわかった。
国立環境研究所や東京都健康長寿医療センターの研究チーム 2024年2月24日:朝日新聞
全国16市町村に住む高齢者約2万人を対象に、犬猫の飼育の有無や飼育状況など調査し、その後2年間の追跡調査を実施。その結果、犬や猫を飼っている人は飼っていない人に比べ、累積生存率が明らかに高いことが分かりました
住み人オンライン 星旦二, 望月友美子(2016). 我が国の高齢者における犬猫飼育と二年後累積生存率. 社会医学研究, 第33巻1号.
アメリカのメンフィス、ピッツバーグ、ペンシルバニアに住む72~81歳までの2,533人を対象に行った調査では、犬の散歩を週3回、150分以上行うグループは犬の散歩をしていないグループに比べ、歩行速度が速く、運動機能が優れていることが明らかになりました。(中略)
日本で65歳以上の高齢者339人を対象に行った研究でも、犬を飼っている人は飼っていない人に比べ、調理や家事、洗濯、買い物などのIADL(手段的日常生活動作)が高いことが判明。犬を飼うことは、高齢者の健康維持につながる可能性があると報告しています
住み人オンライン
犬が高齢者を救う
以前、株式会社ピュアボックス(「ドットわん」というブランド名で高品質・天然ペットフードを製造、販売し)淺沼悟社長の紹介で早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授にお会いする機会がありました。
「運動不足解消プロジェクト」や「お散歩不足解消プロジェクト」と称し、様々なドッグスポーツや、ウォーキング、ハイキングイベントを実施していたときで、それらの話を浅沼社長にしたところ、岡教授と引き合わせてくれました。
「犬が高齢者を救う」
との発言が今でも印象に残ってます。
理由は、犬は「散歩に行きたい」「ご飯食べたい」といったように飼い主に要求をする動物。
高齢者にとって、その要求に応えようとすることこそ、活動動機となり、健康維持に繋がっているからだと言うのです。
犬は最高のパーソナルトレーナー、毎日そばにいて、「散歩に行きませんか」と誘ってくれます。それが10年以上も続くわけで、そんな存在は他にはいません。
サライ:犬は最高のパーソナルトレーナー。犬の散歩は人の健康寿命を延ばす 岡浩一朗教授
しつけ教室などで要求行動を抑制するトレーニング方法を行ってきた身としてはとても新鮮でした。
「元気な高齢者が増えれば、要介護者が減り、社会保障費を削減できる可能性だったある。」
それまで、真の共生社会を構築するためには、犬を飼っていない人、苦手な人たちにも受け入れていいただける何かが必要だと日々感じていたなかで、元気な高齢者を増やす可能性を秘めていることを知り、「犬が社会全体に貢献できる」と興奮したことを覚えています。
1日8000歩、そのうち早歩き20分
みなさん、青栁幸利博士が行った中之条研究というものをご存知でしょうか?
青栁幸利博士は2000年より群馬県中之条町で、高齢者の日常的な身体活動と心身の健康に関する学際的研究を行っています。 65歳以上の全住民約5,000人を対象に、運動や身体活動の状況、食生活、睡眠時間、労働時間、病気の有無や体調などを調査し、その内の2,000人に対して、詳細な血液検査や遺伝子解析を行いました。
山佐時計計器株式会社 「1日8000歩・速歩き20分」で病気予防 「中之条研究」の青栁 幸利博士
さらに、その内の500人に、活動量計を入浴時以外は常に身につけてもらい、身体活動の実態を調査した結果、生活習慣病などさまざまな病気の予防に必要な“歩数”と“速歩き(中強度の活動)時間”を導き出しました。
ウォーキングはさまざまな病気を予防する手軽な運動ですが、具体的にどのようなウォーキング方法が病気の予防に有効なのかを示すデータはほとんど存在しませんでした。
山佐時計計器株式会社 「1日8000歩・速歩き20分」で病気予防 「中之条研究」の青栁 幸利博士
それを科学的な研究結果に基づいて、具体的な数値で明らかにしたのが中之条研究(※1)を行っている青栁博士(※2)です。認知症、糖尿病、うつ病、骨粗しょう症、高血圧症、脳卒中、心臓病、がんなど多くの病気を予防できるのは、1日当たりの平均歩数が8,000歩で、その中に速歩き(中強度の活動)を20分以上行うことが効果的だと導き出しました。
「1日8000歩・速歩き20分」には、通勤など、日常生活で歩く歩数も含みます。また、速歩きについても連続で行う必要はなく、1日の合計が20分でよいです。
健康のためだとはいえ、自分のためだけに歩くとなると「今日はいいかな」と甘さも出てきたりします。
ですが「誰か(犬)のため」となると人って案外頑張れたりしますよね。
それが、結果的に自身の健康寿命を伸ばすことにもつながるなら、素晴らしいことだと思いませんか?
後顧の憂いをなくすための環境づくり
高齢者が犬を飼わない理由として最も多いのが「自分が病気になったり、亡くなったりして面倒を見れなくなったらどうしよう」であることは誰もが容易に想像がつきますし、実際その思いで飼わない方もたくさんいるはずです。
ですが、その悩みは何も高齢者だけのものではありません。
ドッグイベントの現役世代の参加者には一人暮らしで犬を飼っている方も多いのですが、その方々も「私が突然の事故で怪我をしたり、亡くなったりしたらこの子はどうしよう。」といった悩みを抱えていたりします。
その万一のときのために、家族や知人、ブリーダーなどに予めうちの子を引き取ってもらう約束をしていると言ってました。
幸い、私には子供がいますので私たち夫婦に何かあった場合、犬やカメ、メダカたちの面倒を見てくれるように頼んでいます。
仮に頼る家族や知人がいなかったとしても、自治体や民間業者による飼育支援も広がりを見せ始めていますので、地元の役所や、犬団体に問い合わせ、相談してみることをおすすめします。
高齢者への支援「社会福祉法人と協力したペット飼育支援」 ・社会福祉法人と協定を締結し、社会福祉法人が地域貢献事業のひとつとして、事前に社会福祉 法人と契約を締結した高齢者が入院・死亡等でペットを飼うことができなくなった場合、福祉 施設でペットの一時預かり及び引き取り(以下、「ペット飼育支援」と言う。)を行う・市及び市獣医師会が協定を締結し、相互協力のもと、社会福祉法人のペット飼育支援について 支援を行う。 支援対象者:1千葉市内に住む65歳以上のひとり暮らし高齢者 2ペットを飼っている又はこれから飼う予定の高齢者 ※ペットの種類や募集地域等は社会福祉法人が定める。
千葉市高齢福祉課
ペットとの暮らしは、私たちを幸せな気持ちにしてくれますが、ペットも飼い主も年齢を重ねると、体力や生活習慣も変わっていきます。
「一人暮らしの高齢者が急に亡くなって、ペットだけが取り残されている」
「飼っているペットの面倒をみてくれる人がいないから、入院できない」
など、ペットと暮らす高齢者からの相談が増えつつあります。ペットの寿命は年々伸びています。飼主の急な入院や死亡などの“もしもの時”に備えて、ペットの一時預かり先や譲渡先を決めておくなど、日頃からじゅうぶんに対策を考えておくことが必要です。
高齢の飼い主が、“もしもの時”に備えて、ペットが安全に安心して暮らせる環境を考えるためのサポートを行います。
福岡県古賀市
飼育保証制度。常設里親募集会場「ペットと暮らそう」から新しい家族のもとへ巣立っていったペットたちの 一生を当団体が保証する制度です。
一般社団法人 動物共生推進事業
一度お引渡しした後に、飼い主様に万が一の事があった場合に、再度引き取らせていただき、「ペットと暮 らそう」からもう一度里親募集をします。
一方「犬の気持ちはどうなのか?」「かわいそうではないのか?」と思われる方もいると思います。
その気持ちは十分理解できますし、誰もが終生飼養したいと願っているはずです。
ですが、確率の差こそあれ100%はありません。
明日から面倒を見れない状態になることは若い人だってあります。
そのリスクばかりを考えると犬と暮らせなくなります。
大切なことは、万一に備え、定期的に家族や知人、ドッグホテルなどに預ける機会を作るなど、下地をしっかりと作っていくことだと思います。
犬の入手先はブリーダーがおすすめ
犬の入手先はブリーダーをおすすめします。
理由として、自身の犬舎で生まれる子犬の性格を最も知っているからです。
例えば、「シーズーは穏やかで飼いやすい」と犬種図鑑に記載されていてもそれは一般論で、実際は血統や親犬の性格、犬舎環境、ブリーディングポリシーなどによって大きく異なります。
私も、何人ものブリーダーとお会いするなかで、「同じ犬種なのにここまで違うのか」と何度も感じたことがあります。
仕入れ専門ペットショップでも熟練スタッフであれば、その個体に応じた説明ができるかもしれませんが、ブリーダーにはかないません。
それに、質の高いブリーダーは「初めて飼われる方」「2頭目」「小さなお子さんがいる場合」、「高齢者が飼う場合」など、各家庭環境に応じて兄弟犬のなかから新しい家族に会った子を紹介してもらえたりします。
ときには「向かない」と判断し、その犬舎の子犬を諦めてもらう場合もあるかと思います。
それらを含め、ブリーダーから子犬を飼うメリットは大きいと考えます。
最後のパートナーを探すことになるかもしれません。
決して衝動飼いはせずに、なるべく多くのブリーダーにお会いすることをおすすめします。
6ヶ月目以降のワンコもおすすめ
「子犬は最高に可愛い!」のは間違いありませんが、高齢者があのテンションとパワーについていくのは大変かもしれません。
それに、子犬期に必要なトレーニングを行なったり、離乳食を与えるのも大きな負担となる方もいると思います。
自信がない場合は、少し落ち着いた月齢(6ヶ月目)の子を迎えられることをおすすめします。
その理由は下記記事をご確認ください。
まとめ
犬と暮らし適度に歩くことが、健康寿命を大きく伸ばす可能性があることをデータが証明しています。
もちろん、高齢者全ての方が犬を飼えるわけではありません。
ですが、少なくともその願望をお持ちなのであれば、家族や知人、地域や団体、専門家などに相談しながら可能性を探り、環境づくりを始めてみてはいかがでしょうか。
ブリーダーさんも、自分のところには合った子がいなくても、別のブリーダーを紹介してもらえることだってあります。
そのつながりが犬と過ごすことになったとき、あらゆる場面でサポートしてくれる頼れる存在になるはずです。
ぜひ最初から諦めずにその一歩を踏み出してみてください。