「うちの子、どうしてこんな性格なんだろう?」──犬を飼っていると、ふと気になることがありますよね。実は犬の性格は、「親からの遺伝」だけでなく、「育った環境」も大きく影響しているんです。
この記事では、攻撃的な性格、人懐っこさ、不安がり、吠えやすさといった性格の特徴が、親犬の性格や育て方でどう変わってくるのかを、わかりやすく解説していきます。
犬の性格に対する遺伝と環境の全体像

犬種によって性格が違うことは、飼い主さんならなんとなく感じているはずです。たとえば、ラブラドールは友好的で、ジャーマン・シェパードは警戒心が強いといったように、人の手で性格傾向が品種に固定されてきた歴史があります。
でも、同じ犬種でも性格はそれぞれ。つまり、性格の違いは遺伝だけではなく、育った環境による影響もとても大きいのです。
特に子犬の時期(生後3〜14週)の経験や、飼い主の接し方、しつけ方がその後の性格を大きく左右します。
子犬は生後8週から譲り受けることができますが、社会性を育ませる大切な時期が半分以上過ぎています。すぐに社会化教育を行ってください。

🐾 攻撃性(Aggressiveness)

攻撃的になるかどうかは、一部は遺伝で決まることがわかっています。たとえば、「知らない人に対して攻撃的になりやすいか」は、68%ほどが遺伝で説明できるという研究もあります(MacLean et al., 2019)。
でも、ラブラドールのように、攻撃性の遺伝率がほぼゼロとされている犬種もあります(van den Berg et al., 2003)。これは、攻撃的な性格を持つ犬を繁殖に使わなかった結果と考えられています。
実際には、十分な社会化や安心できる環境で育てれば、攻撃的な性格のリスクはグッと減ります。逆に、怖がらせたりストレスをかけるような環境だと、攻撃性が強く出てしまうこともあります。
愛犬の攻撃性が出てしまう原因として、飼い主が無意識に追い込んでしまっているケースもあります。そうならないためにも、愛犬が発するカーミングシグナルを理解してあげましょう。

🤝 社交性(Sociability)

人や犬に対してフレンドリーに接する「社交性」も、ある程度は遺伝することがわかっています。ビーグル犬の研究では、23〜32%が遺伝によるものだとされています(Persson et al., 2015)。
ただし、子犬期にどんな経験をしたかがとても大切。いろいろな人や犬と触れ合った経験がある犬は、人見知りしにくく、フレンドリーになりやすいです。
また、飼い主の性格や育て方も影響します。飼い主が穏やかでフレンドリーであれば、犬にもその空気が伝わります。
経験上、飼い主と愛犬の性格はある程度連動しているように感じています。神経質な飼い主に育てられた犬も神経質になっているケースが多いです。おおらかに育てることが肝要です。
😟 不安傾向(Fearfulness)

音や新しい場所に対して怖がりやすい性格は、「不安傾向」と呼ばれます。これもある程度は遺伝しますが、実は育て方で大きく変わります。
たとえば、花火や雷の音が苦手な子も、生後の段階でそうした音に少しずつ慣らしてあげることで、不安を軽くすることができます。
また、子犬時代に母犬からたっぷり世話を受けた犬は、成長後も安定した性格になりやすいという研究もあります(Foyer et al., 2016)。

🐕 吠える傾向(Barking Tendency)

「うちの犬、やたらと吠えるんです…」と悩む飼い主さんも多いですが、吠えやすさはほんの一部だけが遺伝によるものです(およそ15%程度、Scott & Fuller, 1965)。
吠える行動の多くは、学習や環境によって強化されていることがほとんど。たとえば「吠えると飼い主が反応してくれる」と覚えてしまえば、吠えるクセがついてしまいます。
そのため、不要な吠えには反応しない、静かにできたら褒めるなどの対応で、かなり改善が期待できます。
要求吠えは飼い主が育てている可能性があります。愛犬がなぜ吠えているのかを観察し、適切な行動をすることが重要です。

🧬 母犬・父犬からの遺伝的影響

子犬は母犬・父犬からそれぞれ半分ずつ遺伝情報をもらいます。
性格についても、遺伝的にはどちらの親の影響も同じくらいあると考えられています。でも、大きく違うのは「育てる側かどうか」です。
母犬は出産後、授乳したり舐めてあげたり、子犬のそばで安心感を与えたりします。こうした「育て方」の違いが、子犬の性格に大きな影響を与えることがあります。
スウェーデンでの軍用犬育成プロジェクトでは、母犬が子犬をどれだけ丁寧に世話したかによって、成犬になったときの安定性や攻撃性に違いが出ることが確認されています(Foyer et al., 2016)。
さらに、同腹のきょうだいとの関係も重要です。同じ環境で一緒に育った子犬同士は、性格的にも似てくる傾向があります。これが「リッター効果」と呼ばれています(Strandberg et al., 2005)。
交配時のみ別のブリーダーに父犬を連れてきてもらうことが多いため、そもそも同じ犬舎にいなかったりします。

おわりに:遺伝と環境の相対的な影響

性格は「親からの遺伝で決まる」と思いがちですが、実際には環境の力もとても大きいです。
攻撃性・社交性・不安傾向・吠える傾向──どの性格にも共通して、遺伝の影響は20〜40%程度、高くても70%以下だとされています。
つまり、飼い主の接し方や環境づくり次第で、性格は大きく変わる可能性があるということ。
【飼い主やブリーダーにできること】
- 親犬の性格をよく見て選ぶ
- 子犬期にしっかり社会化させる
- 落ち着いた、安心できる環境を用意する
たとえ神経質な性格を受け継いでいたとしても、適切な関わり方をすれば、穏やかで暮らしやすい性格に育てることができます。
犬の性格は、あなたの関わり方次第で大きく変わります。愛情と理解をもって接すれば、きっとその子らしい素敵な性格に育ってくれるはずです。


📚 参考文献
- MacLean, E.L. et al. (2019). “Highly heritable and functionally relevant breed differences in dog behaviour.” Proc. R. Soc. B 286: 20190716.
- Persson, M.E. et al. (2015). “Human-directed social behaviour in dogs shows significant heritability.” Genes, Brain and Behavior 14(4), 337–344.
- Foyer, P. et al. (2016). “Early experiences modulate stress coping in a population of German Shepherd dogs.” Applied Animal Behaviour Science, 181, 7–15.
- Strandberg, E. et al. (2005). “Genetic analysis of Swedish dog data.” Journal of Animal Breeding and Genetics, 122(4), 219–228.
- Scott, J.P., & Fuller, J.L. (1965). “Genetics and the Social Behavior of the Dog.”
- van den Berg, L. et al. (2003). “Heritability of aggressiveness in dogs.” Behavior Genetics, 33(5), 513–520.