散歩の主役は“移動距離”ではなく安全と落ち着きです。リードがU字にたるんだまま歩く「ルーズリードウォーク(LLW)」は、事故やトラブルを防ぎ、犬の心の安定を育てる散歩の基本。本記事は、おやつや大げさな称賛に頼らず、環境の結果(進める/止まる・匂いOK/保留)だけで引っ張りを解消する方法を、道具選びから7日・4週間プランまでやさしくまとめました。
1. ルーズリードウォークとは?(意味と基本ルール)

定義:リードが常にU字に緩んだ状態で、犬が自発的に飼い主のそばを歩くこと。生活散歩の“落ち着いた歩き方”で、競技の脚側とは目的が違います。
競技の脚側(ヒールウォーク):犬がハンドラーの左脚側で正確な位置・角度・集中を維持しつつ、直進・ターン・速度変化・停止を減点なくこなす競技用の歩行スタイル。
覚えるのは3つだけ
- 緩んでいる → 進む
- 張ったら → その場で静止
- また緩んだら → 再スタート
叱る必要はありません。結果(進める/止まる)だけで静かに一貫して伝えます。
2. なぜ必要?:事故防止・健康・犬の心の安定

- 事故防止:飛び出し・転倒・他者への接触を減らす。
- 健康:首・気管・頸椎への負担を軽減(小型犬・短頭種・シニアほど重要)。
- 心の安定:張りっぱなしの“緊張の連鎖”が消え、吠えや突進が起こりにくい。
緊張の連鎖:周囲刺激やリードの張りで生じた緊張が犬→人→犬へと相互に伝わり、引っ張り・吠えなどの反応が増幅・持続してしまう悪循環。
- 社会性:歩行者・ベビーカー・自転車とのすれ違いがスムーズ。
- 継続性:飼い主の肩や腰の負担が減り、散歩が“楽しく続く”習慣に。
3. 引っ張りが招くリスク(しつけ/健康)

しつけ・行動面
- 力比べの悪循環:引かれると踏ん張る反射が働き、引っ張りが強化されやすい。
- 誤学習:「引けば早く進める」と覚えると癖が固定化。
- 興奮の増幅:張力の不快→緊張→吠え・突進・跳びつきが出やすい。
- 嫌悪の連鎖:他犬や自転車を見る→リードが張って不快→対象が苦手になりやすい。
健康面
- 首・気管・頸椎への負担(特に小型犬/短頭種)
- 瞬間的な眼圧・血圧上昇
- 転倒・捻挫など、人も犬も事故リスク上昇
結論:引っ張りを“力で止める”ほど、行動も身体も消耗します。緩みで歩くこと自体が最大の予防策。
4. ルーズリードウォークには胸前クリップ型ハーネスがおすすめ

首輪(カラー)は力が首に集中し、背中クリップのハーネスは前進の牽引をそのまま後押ししがちです。対して胸前クリップ型は、前に出る力を横にそらして失速させるため引っ張りにくく、力比べになりません。さらに力が胴に分散して首・気管・頸椎の負担を軽減。ルーズリークウォークの合図(緩み=進む/張り=止まる)も伝わりやすく、Y字形状なら肩の可動や脇の余裕も確保できます。街歩きの安全と学習のしやすさを両立する“土台”として、まずこのタイプを基準に選ぶのが合理的です。
私は以前までハーフチョークカラーが引っ張り癖には最も良いと考えていましたが、腕前クリップ型を知って、今ではこちらの方が良いと感じるに至りました。
メリット
- 前へ出るほど体が横向きになり、直線的な牽引になりにくい。
- 力が胴体に分散し、首・気管への衝撃を軽減。
- 背中リング併用の2点式(ダブルリード)も可能で安心。
胸前クリップ型おすすめハーネスをご紹介
Ruffwear Front Range
- 特徴:胸前&背中の2リング/厚めパッドで日常使い快適。
- 向き:初めての前胸クリップ/長時間の散歩。
- 注意:毛量多めは夏場やや暑い→サイズと通気を要チェック。
Blue-9 Balance Harness
- 特徴:6点調整で体型フィット抜群/胸前&背中リング。
- 向き:胴長・胸厚など“合いにくい体型”/細かくフィットさせたい人。
- 注意:初装着は調整に時間がかかる。
2 Hounds Design Freedom No-Pull
- 特徴:胸前+背中(背中側は軽い引き締めループ)/ダブルリード運用がしやすい。
- 向き:引っ張りが強めで2点牽引を使いたいケース。
- 注意:脇の擦れに注意(毛量・サイズ調整で回避)。
Kurgo Tru-Fit
- 特徴:胸前&背中リング/車内固定用の簡易ストラップ付属(モデルによる)。
- 向き:ドライブ+散歩の両用/堅牢な作りが好み。
- 注意:やや重量感あり。サイズ表と調整幅を確認。
EzyDog X-Link
- 特徴:軽量スポーティ/胸前&背中リング/動きやすさ重視。
- 向き:アクティブな散歩・ジョギング。
- 注意:細身の子は抜け対策にフィット再調整をまめに。
PetSafe Easy Walk
- 特徴:胸前のみのシンプル前クリップ/入門向け。
- 向き:まず「前で止める」感覚を掴みたいケース。
- 注意:Y字ではなく前胸横帯タイプ。脇擦れと装着位置ズレに注意(低すぎ×)。
どのモデルでも指2本の余裕を基準に、脇の擦れ・前胸リングの高さ(肩より下)・抜けにくさをチェックすると失敗しにくいです。
5. 胸前クリップ×スタンダードリードで始めるルーズリード練習

おやつや大げさな褒めは使わず、前に進めることそのものを「ご褒美」にします。
ルールはとてもシンプル。
私は命に関わるしつけは、できる限りおやつなどを使って褒める方法は取らない方が良いと考えています。
👉 リードが緩んだら前進、張ったらその場で停止。
これを静かに、根気よく、一貫して繰り返すだけです。
ステップ① 準備
- 道具:1.2〜1.8mのスタンダードリード(伸縮式は不可)+胸前クリップ型ハーネス
- 姿勢:手は胸の前で安定させ、引いて直さない(直すのは犬の仕事)
- 環境:まずは静かで刺激の少ない場所や時間帯からスタート
ステップ② 練習法
- 一歩ゲーム:一歩進む → 張ったら止まる → 緩んだら再開
- Uターン:前に出たら、無言でくるっと180°方向転換(力は使わない)
- 歩調変化:小股→普通→やや速く。緩みが続けば前進、張れば停止または方向転換
ステップ③ すれ違いのコツ
- 他の犬や自転車、人と出会うときは、犬が落ち着ける距離を保ち、少し外側にふくらんで通過
- 慣れてきたら
①距離を少しずつ縮める → ②落ち着ける時間を延ばす → ③進路を直線に近づける
の順で一つずつ難易度を上げましょう
ステップ④ ご褒美の作り方
区間を落ち着いて歩けたら、そのまま前進を続けるか、5〜10秒だけ匂いOKを静かに与えます。
これが「前進=ご褒美」というルール。
おやつに頼らず、散歩そのものの中で落ち着いた歩き方を定着させられます。
リードを引っ張って散歩をした時間が長ければ長いほど、ルーズリードウォークができるまで時間がかかります。根気よく行うことが重要です。

6. フレキシブルリードの使い分けとメリハリ散歩

なぜフレキシブルリードはルーズリードウォークに不向き?
- 自動巻き戻しで常にテンションがかかりやすい。
- “止まる/進む”の合図が曖昧になりやすい。
- 細いコードが脚に巻き付く・接触事故など、安全面の懸念。
結論:街歩き・練習はスタンダードリード一択。フレキシ/ロングは使って良い場所(公園・広場など)での“遊び用”に切り替える。
使い分け早見表
リード | 主な目的 | 場所 | 向いていること | 不向き |
---|---|---|---|---|
スタンダード 1.2〜1.8m | LLW練習/通常散歩 | 歩道・街中 | 「緩み=進む/張り=止まる」を正確に伝える | 広い探索・全力走行 |
フレキシブル | 遊び・探索(可の場所) | 公園・広場 | 直線的な移動・匂い探索 | LLW基礎づくり、交通量多い場所 |
ロング 5〜15m | 呼び戻し・もってこい | 広い芝地 | 自由度と安全の両立 | 狭い歩道・混雑エリア |
7. よくある質問(Q&A)

Q. おやつや褒めは本当に不要?
A. 必須ではありません。 進める/止まる・匂いOK/保留という散歩の結果で学びます。依存や馴化の副作用が少なく、現場で再現性が高いのが利点。
おやつを使用してのトレーニングは、最終的におやつを抜くことが重要ですが、それができず与え続けている飼い主を多く見かけます。おやつに依存した状態になると、それがないと指示を聞かない子になる可能性が高いです。「おやつの切れ目が縁の切れ目」となります。
Q. 伸縮リード(フレキシ)で練習できる?
A. 非推奨。 常時テンションがかかり“緩みの感覚”が学べません。街歩き・練習はスタンダードリード、フレキシ/ロングは遊び用に。
Q. 小型犬・短頭種でも同じ?
A. 基本は同じ。胸前クリップ+Y字で首の負担を下げ、脇の擦れと暑さの蒸れに注意。
Q. 多頭引きは?
A. まず1頭ずつルーズリードウォークを安定→2頭→3頭と段階化。並ぶ順番と出発合図を固定すると崩れにくい。
8. まとめ
- ルーズリードウォーク=U字の緩みで歩く生活散歩の基本。
- 必要性:事故防止・健康・犬の心の安定に直結。
- 引っ張りのリスク:力比べの悪循環+首・気管・頸椎の負担。
- 装備:胸前クリップのハーネス+スタンダードリード1.2–1.8m。
- 教え方:緩み=進む/張り=止まるを無言・一貫で運用、区間クリア後は匂いOK。
- 使い分け:街歩きはスタンダードリード、フレキシ/ロングは使って良い場所で遊び用。
- 最初の一歩:今日、家で一歩ゲームを1分×3。明日は静かな道で同じことを。
散歩中、すれ違う犬に吠えてしまうケースなどはハーフチョークカラーが有効な場合もあります。
