「珍しいカラー」「レアカラー」を売りに子犬を販売している繁殖業者やペットショップが後を絶ちません。人気犬種になれば、一気にカラーバリエーションが増え、従来あまり見られなかった色の子犬が「世界に一頭」「他では手に入らない」といった触れ込みで販売され、高額で取引されることもあります。
確かに、特別感のある毛色を持つ犬は目を引き、他の飼い主と差別化できる魅力もあるでしょう。しかし、珍しい毛色は魅力的であると同時に、健康リスクや繁殖上の問題、さらには商業主義的な乱用の温床になりやすいという現実があります。
この記事では、犬の毛色の仕組みを遺伝学的な観点から解説し、希少カラーが抱えるリスクや「珍しいカラー商法」の問題点を深掘りします。さらに、飼い主が子犬を選ぶ際にどのような視点を持つべきかを整理し、健康第一で犬を迎えるための具体的な行動指針をお伝えします。
犬の毛色はどう決まる?

犬の毛色は、基本的に ユーメラニン(黒・茶系の色素) と フェオメラニン(赤・黄系の色素) という2種類のメラニン色素によって決まります。これらの色素の量や分布を制御しているのが遺伝子であり、複数の遺伝子の組み合わせによって実に多彩な毛色が生み出されています。
代表的な遺伝子の働きを簡単に整理すると以下のようになります。
- B遺伝子:黒(B)か茶(b)かを決める。bが2つ揃うとチョコレート色。
- D遺伝子:色を薄める。dd型になるとブルーやイザベラに。
- M遺伝子:マール模様(まだら模様)を作る。
- S遺伝子:白斑(斑点や白抜け模様)を作る。
遺伝子には 優性(強く表れる) と 劣性(隠れるが2つ揃うと表れる) の関係があります。珍しいカラーの多くは劣性遺伝で現れるため、両親が同じ劣性遺伝子を持たなければなりません。そのため、希少カラーを狙った繁殖では近親交配が行われやすくなり、結果的に健康上の問題が現れやすくなるのです。
希少カラーに潜む健康リスク

ダブルマールの危険性
マール模様は人気がありますが、マール同士を掛け合わせると25%の確率で「ダブルマール」と呼ばれる子犬が生まれます。これらの犬は被毛がほぼ白くなり、先天性の難聴や視覚障害を抱える可能性が非常に高くなります。
外見は個性的で魅力的に見えるかもしれません。しかしその裏側で、生活の質を著しく損なう障害が隠れていることを理解する必要があります。
ディリューションカラー(ブルー・イザベラなど)
D遺伝子がdd型になると色が淡くなり、ブルーやイザベラと呼ばれるカラーが現れます。これ自体は珍しく美しい毛色ですが、カラー・ディリューション脱毛症(CDA)と呼ばれる遺伝性皮膚疾患が発症する場合があります。
症状としては、毛が薄くなったり脱毛したり、皮膚が乾燥して炎症を起こしやすくなるなど。命に関わる病気ではありませんが、犬も飼い主も長期的に負担を抱えることになります。
極端な白(アルビノ)
ごく稀に、全身の色素が欠如するアルビノ個体が生まれます。白い被毛や赤みがかった瞳は珍しく見えますが、光過敏や視覚障害、皮膚がんリスクを伴います。アルビノは単なる毛色のバリエーションではなく、医学的には疾患に分類されることもあります。
価格が高い=質が良いとは限らない

犬を購入する際に「高額だから良い犬だろう」と考える人は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。
本来、犬の価格は 「優れたブリーダーのノウハウと飼育環境」「健康で安定した性格を持つ両親」「適切な医療ケアと社会化」 などに基づくべきです。これらは子犬が健やかに成長するための基盤であり、本来なら価格の主要な判断基準となるはずです。
ところが実際には、「珍しい色だから」という理由だけで相場より高額に設定されることがあります。高額=質が高い ではありません。むしろ「珍しいカラー」というラベルだけで釣り上げられた価格に惑わされること自体が危険です。


信頼できるブリーダーやショップの条件

どんなに気をつけていても、珍しい毛色の子犬が生まれてしまうことはあります。大切なのは、それをどう扱うかです。
信頼できるブリーダーやショップは、「希少だから高く売れる」ではなく「健康リスクを正直に説明し、繁殖には使わない」という姿勢を持っています。
例えば、「この毛色は繁殖に適さないため、避妊・去勢を前提に譲渡しています」と伝えるブリーダーは誠実です。これは商業的な利益よりも犬の福祉を優先している証拠であり、そのようなブリーダーやショップからなら安心して子犬を迎えることができます。
希少カラー需要が生む悪循環

需要がある限り、供給は続きます。つまり、「珍しい色だから欲しい」という需要がなくならない限り、珍しいカラー商法はなくならないのです。
この悪循環を断ち切るには、飼い主となる側が正しい知識を持つことが欠かせません。「珍しいから」ではなく「健康な子犬を迎えたい」という価値観を広げていくことが、結果的に犬の未来を守ります。
まとめ

珍しい毛色の犬は魅力的で、人目を引きます。しかし、そこには遺伝的リスク、繁殖の倫理的問題、商業主義的な価格操作が潜んでいることを忘れてはいけません。
健康で幸せに暮らせるかどうかこそが、犬を迎えるときに最優先すべき基準です。珍しいカラー商法に惑わされるのではなく、正しい知識を持ち、誠実なブリーダーやショップから子犬を迎えること。それが犬と人の双方にとって本当の幸せをもたらす選択となります。
犬を守るのは、私たち飼い主の選択です。