「吠えるのは性格のせい?」
散歩中に見知らぬ犬や人に出会ったとき、突然吠えたり、身構えたりする愛犬に驚いた経験はありませんか?
それは性格やしつけの問題ではなく、犬の本能に深く関わる“合理的な行動”かもしれません。
本記事では、犬が他集団や未知の存在に対して見せる警戒・攻撃性の背景を、進化や群れの行動原理から解説します。
群れの仲間には優しく、外には警戒する犬たち
犬は本来、仲間(家族・群れ)には寛容で協力的な一方、外の存在には用心深く接する動物です。
この傾向は、オオカミなどのイヌ科動物から受け継がれた「縄張り意識」や「外敵排除の本能」に由来します。
野生のオオカミは、他の群れが自分たちの縄張りに侵入すると激しく追い払います。
同様に、野良犬の観察でも、自分たちの行動圏(縄張り)を防衛する行動が記録されています(frontiersin.org)。
頭数差を判断し“戦うか逃げるか”を決める

驚くべきことに、犬は相手と自分たちの“頭数”の差を本能的に判断しているようです。
複数の観察研究(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)によると、野良犬の群れ同士が遭遇した際:
- 自分たちの方が数で勝っていれば、積極的に近づいて威嚇・攻撃に出る
- 相手の方が多ければ、多くの個体が早々に退却する傾向
これは、リスクを最小限にしながら資源や仲間を守るための戦略的な判断行動と考えられます。
吠える犬は「警備中」?人との共進化が生んだ習性
オオカミにはあまり見られない「吠える」という行動は、人との共進化の中で犬に特有の習性として強化されたと考えられています。
自分の縄張り(自宅や生活圏)に見知らぬ人間や動物が現れると、多くの犬は吠えたり唸ったりして警告します。
これは「仲間(飼い主)に危険を知らせる」「侵入者を追い払う」ために有利な性質だったため、番犬として選択育種されてきた結果とも言えます(merckvetmanual.com)。
品種によっても違う“対外的攻撃性”

見知らぬ人や犬への警戒心・攻撃性は、犬種ごとの目的や歴史にも影響されます。
例えば:
- 警備・護衛を目的に改良された犬種(ジャーマン・シェパード、ドーベルマンなど)は警戒心が強い傾向
- 社交性や家庭向けを重視された犬種(ゴールデン・レトリバー、トイ・プードルなど)は見知らぬ人にも友好的

ただし、こうした傾向も育て方・環境・社会化経験によって大きく変わることを忘れてはいけません。
飼い主ができる“安心の導き方”
見知らぬ存在への警戒は犬の本能。でも、それを無理に押さえ込もうとするのは逆効果になることもあります。
◎まずは安全な距離感を守る
無理に近づけず、犬が自分で安心できる距離で観察させる時間をとることで、警戒が和らぐことがあります。
◎無理に犬友を作らせない
ドッグランや散歩中、「仲良くさせたい」と思っても、犬には相性やペースがあります。無理な接触はストレスになり、吠えや不安行動につながる可能性も。
◎警戒行動に意味があると知る
吠えたり威嚇すること自体が悪いのではなく、「自分や家族を守ろうとしている」大切な行動であることを理解してあげることが重要です。


おわりに──犬の警戒心は“知性と戦略”の証

犬が見知らぬ存在に警戒するのは、生き延びるための本能であり、集団を守るための合理的な戦略です。
それを「わがまま」や「怖がり」と捉えるのではなく、犬がどんな気持ちでその行動を選んでいるのかを知ることで、私たち飼い主は犬との信頼関係をより深めていくことができるはずです。

参考文献
- Pal, S.K. (2011). Mating system of free-ranging dogs (Canis familiaris). Applied Animal Behaviour Science.
- Beckoff, M. (2008). The Emotional Lives of Animals. New World Library.
- Merck Veterinary Manual. Canine Behavior. https://www.merckvetmanual.com