犬は言葉を話せませんが、その代わりに体の動きや視線、行動で多くのことを語っています。中でも注目すべきなのが、「関わりたくない」や「近づかないでほしい」という意思表示=ディスタンス・シグナル(距離を取りたいサイン)です。
これらのサインは、犬が争いを避けるために用いる平和的なボディランゲージの一種で、カーミングシグナルの延長とも言えます。今回は、このディスタンス・シグナルに絞って、その種類と読み取り方、対処法を紹介します。
ディスタンス・シグナルとは?

リードにつながれた状態での犬同士の挨拶には注意
公園や道端で「お友達になれるかも」と思い、リードをつけたまま他の犬に近づけることはよくありますが、これは非常にリスクの高い行動です。
リードがあると犬は自由に距離を取ることができず、「逃げたい」という自然な選択肢が奪われてしまいます。その結果、ディスタンス・シグナルを出しても相手が近づき続けた場合、最終的に唸る・噛むといった自己防衛の行動に出てしまう可能性があります。
また、リードの緊張が犬にプレッシャーを与えることもあり、挨拶がうまくいかない原因になります。飼い主が「お友達〜」と軽い気持ちで近づけても、犬にとっては「逃げられないストレス状態」に置かれることがあるということを、ぜひ覚えておきましょう。
ディスタンス・シグナルとは、犬が「今は関わりたくない」「この状況が不快」と感じたときに出す行動のこと。犬は攻撃する前に、まずこうした“やんわりとした拒否サイン”を出して距離を取ろうとします。
これを見逃したり無視したりすると、次第に唸りや噛みつきといった行動に発展する可能性があるため、飼い主や周囲の人が敏感に察知することが大切です。
犬が見せる代表的なディスタンス・シグナル

1. 体をそらす・背中を向ける
相手と直接向き合わずに身体を斜めにしたり背中を向けたりするのは、「関わる気はありません」という柔らかい拒否の表現です。無視するように見えて、実はとても丁寧な「NO」の伝え方です。
2. 顔を背ける・視線を合わせない
目を合わせないのは、敵意がないという意味もありますが、「これ以上関わらないで」というサインでもあります。視線をそらし続けていたら、そっとしてあげましょう。
3. その場から離れる・移動する
自分から相手から離れるように歩いていく、場所を移す、ソファから降りるといった行動も明確なディスタンス・シグナルです。逃げ道があるうちは、犬は物理的に距離を置こうとします。
4. あくびや舌なめずりを繰り返す
リラックスしていない場面でのあくびや舌なめずりは、緊張や不安のサイン。これは自分を落ち着かせる行動でもあり、「これ以上関わるとストレスです」と伝えている可能性があります。
5. フリーズ(固まる)
極度の緊張や不快感があるとき、犬はピタッと動きを止めてしまうことがあります。これは「もう限界です、刺激しないで」という非常に強いメッセージ。早急にその場から離れる、関わるのをやめる必要があります。
ディスタンス・シグナルを尊重することの大切さ
犬は攻撃的な行動の前に、必ず何かしらの警告サインを出しています。その最初のステップがディスタンス・シグナルです。これを「無視していい」「しつけでやめさせよう」と考えるのではなく、「気づいて受け取る」ことが飼い主としての役割です。
このサインを尊重することで、犬は「自分の気持ちをわかってもらえた」と感じ、無理に自己防衛する必要がなくなります。これは信頼関係を築く大きな一歩になります。
まとめ:距離を取りたい犬の気持ちに寄り添おう

犬のディスタンス・シグナルは、怒っているのではなく「平和的にその場から離れたい」という願いの表れです。その気持ちに寄り添い、無理に触れたり近づいたりせず、安心できる環境を整えることが犬との良好な関係を築く鍵になります。
愛犬のしぐさをよく観察し、「今、何を伝えたいのか」を汲み取る力を育てていきましょう。
