はじめに──犬の遊びには意味がある
犬同士のじゃれ合いを見たことがある方は多いかもしれません。唸り声をあげたり、歯をむいて追いかけたりする様子に驚くこともあるでしょう。しかしその中には、実は明確な“遊びのルール”とコミュニケーションが存在しています。
その鍵となるのが「プレイバウ(play bow)」と呼ばれる犬の動作です。
プレイバウとは?──犬の「遊びたい!」のサイン

プレイバウとは、前脚を地面に伸ばし、上半身を伏せて、お尻を高く突き上げる独特のポーズで、人間にはお辞儀のようにも見えます。この姿勢は、犬が「これからの行動はケンカではなく遊びだよ!」という意思を伝えるための定型的なサインであり、イヌ科動物全般に共通して見られます。
このサインの効果は科学的にも裏付けられています。『Scientific American』の記事によると、プレイバウの後に多少荒々しいじゃれ合いが起こっても、相手の犬が防御的・敵対的に反応したケースは全体の約15%にとどまったと報告されています。つまり、大多数の犬はプレイバウを「これは遊びだ」という信頼できるメッセージとして受け止め、安心してその場に身をゆだねているのです。
フェアプレイ精神──犬同士のルールある遊び

この信頼を前提とした遊びには、さらに驚くべき側面があります。犬同士のじゃれ合いには、「公正さのルール」が存在するのです。例えば、体格差がある2頭の犬が遊ぶ場合、大きな犬は自らハンデを負い、噛む力を加減したり、体を伏せることで相手を圧倒しないように配慮します。また、序列の高い犬があえて腹を見せて、序列の低い犬に「勝たせてあげる」場面も観察されています。
こうした行動は、遊びを続けるための“譲り合い”です。一方的に力で押し切ると相手が嫌がってしまい、遊びが終わってしまう──それを犬たちは本能的に理解しているのです。まさに「フェアプレイ」が、犬たちの信頼関係を育む要素になっているのです。
謝る力──もう一度プレイバウ

さらに興味深いのは、犬が誤って相手を痛がらせてしまった場合に見せる行動です。その場合、犬は再びプレイバウをして「ごめん、今のは遊びのつもりだったよ。まだ続けよう!」と伝えるかのような“謝罪のジェスチャー”を取ることがあります。このやり取りの後、相手の犬がそれを受け入れ、遊びを再開するケースも多く見られます。
遊びから生まれる信頼と絆
つまり、犬たちは遊びの中で、信頼・寛容・公平さといった社会性の基礎を自然と表現しているのです。こうした遊びを通じて、犬たちは相手と安全な関係を築き、仲間としての絆を深めていきます。
このような背景を理解すると、犬同士の遊びを見守る目も変わってくるでしょう。吠え声や組み合いのような見た目に惑わされず、プレイバウという平和のサインを見逃さないことが、犬の気持ちを正しく読み取り、安心できる関係を築く鍵になります。
おわりに──プレイバウは犬の「ことば」
犬たちの遊びは、単なる余暇ではありません。それは、信頼を伝え、社会を形成するための大切な言語なのです。